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広報・研究成果

産総研ニュース
発 行 日  1998 Vol.4 No.4
カ テ ゴ リ  II 研究
タ イ ト ル  高温耐熱型摺動部材の開発

1 はじめに

 機械機器部品や精密機器部品などの摺動部の摩擦力を小さくして摩耗を防ぐために,鉱物系の潤滑油剤を供給する方法が広く用いられている。しかし,宇宙機器や原子力機器,エレクトロニクス機器や医療機器などの先端機器の進歩にともない,高温雰囲気下や真空雰囲気下で摺動する機械要素部品の活用が多くなっている。これらの雰囲気下では従来の潤滑油剤が供給できないため,自己潤滑性に優れた,低摩擦,低摩耗の素材が使用されている。自己潤滑性を持つ摺動材には,金属系,プラスチック系などがあるが,プラスチック系の摺動材は金属系のものに比べ高い温度での使用は出来ない。金属系の摺動材は二硫化モリブデンや二硫化タングステン,グラファイトなどの固体潤滑剤を含有した銅合金を母材とした焼結金属がいろいろと開発されている。銅系の焼結金属は200℃前後での使用に優れているが,300℃前後で圧縮強度や比摩耗量などの特性が低下するため,500℃前後の高温雰囲気下で使用すると性能低下が著しい。そのためには,鉄系を母材とした摺動材が有効と思われるが,この素材に関する報告は少ない。

 本研究は,大気中500℃および真空中でも使用可能な摺動材を開発することを目標に,鉄粉を母材に用いて,各種の固体潤滑剤を含有させた摺動材の製作と摩擦・摩耗特性について検討し,製品化技術の開発をR社との共同研究で行った。

2 摺動材の製作

 摺動材の製作は粉末冶金法で行った。母材にはカルボニル鉄粉を使用し,固体潤滑剤には大気中550℃まで使用可能なグラファイトと真空中で優れた潤滑性を示す二硫化モリブデンや二硫化タングステンを用いた。これらの固体潤滑剤の単体粉末は微粒なため,焼結時に母材の鉄と反応して消滅しやすく潤滑特性の向上が望めないと考えられる。そこで,2種類の固体潤滑剤を複合化して大きな顆粒状の潤滑剤を作製して使用することにした。図1に製作の工程を示す。初めに,2種類の固体潤滑剤を所定の割合で配合してボールミルで混合し,その粉末をCIP成形した後,成形体を粉砕して顆粒状にする。この顆粒を分級してカルボニル鉄粉とボールミルで混合し,プレス機を用いて一軸加圧成形で成形体を作製し,不活性ガス雰囲気で焼結を行った。開発した
摺動材は使用環境の違いによる要求特性に応えるため諸特性の異なる3種類の摺動材を開発した。
 タイプ I:固体潤滑剤の含有量を少なくして強度と靱性を高めたタイプ
 タイプ II:潤滑性を重視した高潤滑性タイプ
 タイプIII:高温での耐酸化性および耐食性を考慮した耐熱タイプ
表1に3種類の摺動材の諸特性を示す。なお,表中に示していないが,耐荷重限界はいずれの摺動材も34.4kNを超えた値を示していた。また,タイプUの高潤滑性タイプの許容面圧は145MPaを示した。

図1 摺動材の製造工程
図1 摺動材の製造工程


表1 開発した摺動材の諸特性
表1 開発した摺動材の諸特性

3 摩擦・摩耗評価

 摩擦・摩耗の評価は円筒の外周面に2つの摺動材を押し付けて左右から荷重を加え,円筒材を回転させて接触部に滑り摩擦を与えるホフマンタイプの摩耗試験機を使用した。今回の実験では円筒材に直径20mmのSUS304材を用いた。実験は1分間経過するごとに荷重を順次増加させて摩擦係数や摩耗量を求める方法と,一定荷重で一定距離滑らせる方法と2つの方法で行った。図2は速度6.3m/min,毎分980Nのステップで荷重を増加させたときの荷重と摩擦係数の結果である。いずれの摺動材も摩擦係数は荷重の増加とともに減少しており,高い荷重に対して良好な潤滑性を示している。図3はタイプUの摺動材に一定荷重(4.9kN)を加え,滑り速度を順次増加させて摩擦熱を発生させ,その時の摩擦熱の温度と摩擦係数との関係を示す。300℃までは0.1以下の摩擦係数で
ほぼ一定で,300℃から徐々に高くなり,500℃で0.12,600℃で0.15,800℃で0.2の値が得られた。

図2 荷重による摩擦係数の変化
図2 荷重による摩擦係数の変化

図3 摩擦温度による摩擦係数の変化
図3 摩擦温度による摩擦係数の変化

4 実製品への応用

 この摺動材と他の素材とを擦り合わすと,相手材に固体潤滑成分の薄くて緻密な被膜が形成されることから,図4に示すように転がり軸受のボールの間に摺動材を挿入した。その結果,ボールの回転が滑らかとなり,しかも表面酸化を防ぐ効果が得られたため長期のメンテナンスフリーを実現することができた。そこで,図5に示す光学用真空薄膜形成装置の回転テーブルの軸受に活用を図った。この装置の回転テーブルは,真空度10-7Torr,350℃の条件で回転するが,テーブルに組み込まれている鋼球が常に焼付きを起こし回転不良が多発していた。そのため,頻繁にメンテナンスを必要としたが,開発した摺動材を鋼球と鋼球の間に挿入することにより,7ヶ月間のメンテナンスフリーが可能となった。現在,各種の機器への適用を広げるためスラリーポン
プの摺動部品,滑り軸受など実製品への取組みを進めている。

図4 転り軸受への適用方法
図4 転り軸受への適用方法

図5 光学用真空薄膜形成装置の回転テーブル軸受
図5 光学用真空薄膜形成装置の回転テーブル軸受

5 おわりに

 この研究は,新分野進出共同研究事業に基づいて産総研と企業との共同研究を実施して行ったもので,今後も連携を図りながら摺動材の性能向上を図ると共に,いろいろな分野で企業との共同研究の取組みを進めて行きたい。

執 筆 者  材料工学部 愛恭輔,佐野明彦,渡部聰
備    考
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